中川用語集
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随伴マトリックス (adjoint matrix)
n×n型正方マトリックスA

の各要素aijの余因子Aijでその要素を置き換えた余因子マトリックス[Aij]の転置マトリックス[Aij]T=[Aji]を随伴マトリックスと呼び、adj(A)と表記する。即ち、

である。随伴マトリックスを用いて、逆マトリックスA-1を、

A-1=I/|A| adj(A)

と定義する。ここで、I;単位マトリックス、|A|;マトリックスAの行列式である。
スケール高度 (scale height)
等温大気の気圧が地上気圧のe分の1になる高度。等温大気の温度をT、重力加速度をg、乾燥空気の気体定数をRとすると、スケール高度は

RT/g

と表される。地球大気の場合は、T=288K、g=9.80m/s2、R=287m2/s2/Kとすると、スケール高度は約8.4kmである。

スコーラーパラメータ (Scorer parameter)
気流の障害物の乗り越え難さを表す指標で、次式

L2 = .(g/qU2) dq/dz - (1/U) (d2U/dz2)

で定義されるパラメータLをスコーラーパラメータと呼ぶ。ここで、g;重力加速度、U;風速、q;温位、z;高度である。右辺第一項は安定度項(the stability term)、第二項は曲率項(curvature term)と呼ばれる。高層気象データの高度分解能が粗いため、定義式の通りの値を求めても、スコーラーパラメータの値はノイジーである。このため、右辺第二項は第一項に比べて小さいので無視して、右辺第一項の安定度項(the stability term)のみ

L2 = .(g/qU2) dq/dz

をスコーラーパラメータとして議論されることもある。この時、ブラントバイサラ振動数N

N2=.(g/q) dq/dz

を用いて表すと、上式は、

L2 = N2/U2

と表現される。この式は、フルード数Frの定義式

Fr=U/Nh

を利用すると、

h2L2 = 1/Fr2

とも表現できる。ここで、h;山岳等の障害物の高さである。風速が大きく、かつ温位勾配と障害物の高さが小さくてフルード数Frが1より大きいと気流は障害物を乗り越え易いので、スコーラーパラメータが小さくてかつ障害物となる山岳等の高さが小さいほど気流は障害物を乗り越え易くなると判断される。逆に、風速が小さく、かつ温位勾配と障害物の高さが大きくてフルード数Frが1より小さいと気流は障害物を乗り越え難く迂回するので、スコーラーパラメータが大きくてかつ障害物となる山岳等の高さが高いさいほど気流は障害物を乗り越え難くなり障害物となる山岳等を迂回して流れると判断される

ステファンボルツマンの法則 (Stefan-Boltzman Law of Radiation)
物質の単位表面積から射出される放射エネルギーの大きさはその物質の絶対温度の4乗に比例するという法則。その際の比例定数は物質により異なる。理論上、尤も効率よく放射エネルギーを射出する物体を黒体と呼び、黒体のもつ比例定数をσで表し、ステファンボルツマン定数と呼ぶ。ステファンボルツマン定数σの値は5.67×10-8Wm-2K-4である。
ステラジアン(steradian)
立体角のSI補助単位で、記号srで表される。一つの球において、頂点が球の中心にある錐体が球の表面を切り取り、その面積が球の半径の自乗に等しい時、その立体角を1ステラジアンと定められている
スプリットウィンドウ法 (split-window technique)
衛星で観測される大気の窓領域内の2波長における輝度温度TB1とTB2を用いて、大気の平均輝度温度の影響を除去して、地表面の輝度温度Tsを求める方法。
大気の窓領域における放射伝達方程式は

Lλ=Bλ(Ts0(λ)+Bλ(TA)[1-τ0(λ)]

と表される。ここで、Bλ(T);プランクの関数、τ0(λ);波長λにおける地表面から衛星までの透過率、Ts;地表面の輝度温度、TA;大気の平均輝度温度である。非常に近い2波長λ1とλ2において輝度(輝度温度)が観測されると仮定すると、

L1=B1(TB1)=B1(Ts1+B1(TA)[1-τ1]
L2=B2(TB2)=B2(Ts2+B2(TA)[1-τ2]

が同時に成り立つ。ここで、添字の1と2は波長を意味し、TB;輝度温度、τ;透過率である。更に、次の3点が期待される。
(1)2つのチャンネルの荷重関数は類似しているので、両式のTAは等しい(10.5〜12.5μmにおけるTAの変動は1K以内とされる。)。
(2)両式において、地表面の射出率およびTsは等しい。
(3)透過率の差は同一の吸収気体の吸収係数の差による(10.5〜12.5μm領域の主たる吸収気体は水蒸気である。)。
荷重関数は地表面で最大のピークを示すので、Ts、TB1、TB2はTAに近い。プランクの関数をTAの回りで展開すると、

Bλ(T)=Bλ(TA)+∂Bλ/∂T(T-TA)

となるので、

B1(T)=B1(TA)+∂B1/∂T(T-TA)
B2(T)=B2(TA)+∂B2/∂T(T-TA)

が成り立つ。両式から(T-TA)を消去して、

B2(T)=B2(TA)+{(∂B2/∂T)/(∂B1/∂T)}{B1(T)-B1(TA)}

が得られる。T=TB2がとT=Tsについて上式を適用すると、それぞれ、

B2(TB2)=B2(TA)+{(∂B2/∂T)/(∂B1/∂T)}{B1(TB2)-B1(TA)}
B2(Ts)=B2(TA)+{(∂B2/∂T)/(∂B1/∂T)}{B1(Ts)-B1(TA)}

とおける。波長2における放射伝達方程式

L2=B2(TB2)=B2(Ts2+B2(TA)[1-τ2]

にこれらを代入して整理すると、

B1(TB2)=B1(Ts2+B1(TA)[1-τ2]

が得られる。この式と、波長1における放射伝達方程式

L1=B1(TB1)=B1(Ts1+B1(TA)[1-τ1]

からB1(TA)を消去すると、

B1(Ts)=B1(TB1)+{(1-τ1)/(τ12)}{B1(TB1)-B1(TB2)}

が得られる。プランクの関数B1(T)を

B1(T)=αT+β

と局所的に線形近似すると、上式は、

αTs+β=αTB1+β+{(1-τ1)/(τ12)}{(αTB1+β)-(αTB2+β)}

となるので、両辺からβを引き、更にαで除すと、

Ts=TB1+{(1-τ1)/(τ12)}(TB1-TB2)

が得られる。波長λにおける透過率τλ

τλ=exp(-βλU/μ)≒1-βλU/μ

と表現できる。ここで、βλ;吸収係数、U;可降水量、μ;衛星天頂角θの余弦の逆数である。従って、

(1-τ1)/(τ12)≒β1/(β21)=const

となる。
例えば、NOAA衛星のAVHRRの第4バンド(11μm)
と第5バンド(12μm)に適用した場合、この値は約3になる。Tsを℃単位、両バンドの輝度温度T11とT12をK単位で表し、重回帰式を求めると

Ts=1.0346T11+2.5779(T11-T12)-283.21

となることが知られており、その精度(誤差)は1K以内とされる。


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