中川用語集
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ポアソンの式(Poisson equation)
 断熱過程にある不飽和空気塊の気温Tと気圧pが満たす条件を示した式のことで、

Tp-R/Cp=cons
t

と表現される。ここで、R;乾燥空気の気体定数、Cp;定圧比熱である。
熱力学の第一法則、

ds=dQ/T=CpdT/T-Rdp/p

の右辺を自然対数lnを用いて次式

ds=dQ/T=dln{Tp-R/Cp}Cp

のように変形した上で、断熱条件(dQ=0)を与えると、

dln(Tp-R/CpCp=0

が得られる。これを積分すれば、

ln(Tp-R/CpCp=const

が得られる。この式は、対数を取る前、更にCp乗する前も一定なので、

Tp-R/Cp=cons
t

となり、ポアソンの式が導かれる。

ボイス・バロットの法則(Buys-Ballot's law)
 北半球において風を背にして立つと低圧域は左手に存在する、という法則。南半球においては低気圧は右手に存在する。かつて左手ではなく左手前方にある、とする表現を見た記憶があるのだが、具体的に思い出せない。
飽差(saturation deficit)
 飽和水蒸気圧と実際の水蒸気圧の差。
放射(radiation)
 物体から射出される電磁波を総称して放射と呼ぶ。単位質量当たり単位波長当たりの放射エネルギーSλは温度Tおよび波長λに強く依存し、プランクの関数

Sλ=(8πhc/λ5)/(ehc/λkT-1)

に従う。ここで、h:プランク定数、c:光速、k:はボルツマン定数である。このため、放射は波長範囲によって、赤外線、可視光線、紫外線、X線などに分類される。気象学が扱う放射は、太陽起源の太陽放射(日射)と地球物質起源の地球放射に限られる。放射起源の温度の相違から、太陽放射の99%以上は波長4μm以下の波長であり、逆に、地球放射の99%以上は波長4μm以上の波長であるので、それぞれを、短波放射、長波放射と呼ぶことが多用される。地球放射を地表面からの上向き長波放射に限る場合もあるが、地球放射には大気が射出する大気放射も含めるのが一般的である。気象学や気候学では、太陽表面や地表面を黒体として扱い、大気を灰色体として扱うことが多い。

放射強制力 (radiative forcing)
 対流圏界面における平均的な正味の放射(下向きの正味放射を正とする)フラックス密度の変化を放射強制力と呼び、ΔFと表記される。様々なタイプの外的あるいは内的要因により平衡状態にある地球−大気系に生じる熱収支の変化の大きさを表す指標として、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)科学的評価作業部会の1994年度特別報告書により提唱された。
最大の正の放射強制力は温室効果ガスによるもので 2.5Wm-2 に迫るとされており、二酸化炭素(CO2)、メタン(CH4)、亜酸化窒素(N2O)、ハロカーボン類(ハロゲン原子であるフッ素、塩素、臭素、ヨウ素を含んだ炭素化合物の総称)の効果が大きい。オゾンの放射強制力は中程度とされ、成層圏オゾンの放射強制力は負の値を取るのに対して、対流圏オゾンの放射強制力は正の値を取る。硫酸エーロゾルの放射強制力はやや低い負の値を示すが、他のエーロゾルの放射強制力は非常に低いとされており、土地利用の変化がもたらすアルベドの変化による負の放射強制力や太陽活動がもたらす太陽放射の変化による正の放射強制力より低い。
放射冷却 (radiative cooling)
 表面や層の放射収支の値が負になることが原因でエネルギーを失い冷却されること。大気層の上端と下端における大気放射フラックス密度の発散により大気層の放射冷却が発生する。地表面が下向きの大気放射フラックス密度より大きな上向き地球放射フラックス密度を射出することにより地表面の放射冷却が発生する。雲量が少ないほど、雲底高度が高いほど、水蒸気量が少ないほど下向きの大気放射フラックス密度は減少するので、地表面の放射冷却は強くなる。放射冷却により低温となった地表面に接地大気層から顕熱が供給されて発生する接地大気の冷却を放射冷却と呼ぶこともある。
暴走温室効果 (runaway greenhouse effect)
 灰色大気の放射平衡モデルにおける平衡地表面温度Tsは、

Ts4=(I0/4σ)(1-α)(τs/2+1)

と表せる。ここで、I0;太陽定数、σ;ステファンボルツマン定数、α;惑星アルベド、τs;大気層の光学的厚さである。大気が存在しない場合の平衡地表面温度Teは、大気層の光学的厚さがτs=0であるから、

Te4=(I0/4σ)(1-α)

と表せる。従って、平衡地表面温度Tsは、大気が存在しない場合の平衡地表面温度Teを用いて、

Ts4=(τs/2+1)Te4

と表されるので、大気が存在して大気の大気層の光学的厚さτsが増加するに従って、平衡地表面温度は大気が存在しない場合より大きくなる。この効果は温室効果と呼ばれている。
大気中には様々な温室効果気体が存在するが、最も重要な温室効果ガスは水蒸気であるので、ここでは温室効果気体として水蒸気のみを持つ大気について極めてシンプルな考察を行うことにする。
地上水蒸気圧e0〔hPa〕の大気層の赤外線射出率εは、通常の地球大気環境下では、

ε=0.599e00.090

と近似できる。大気層の光学的厚さτsと赤外線射出率εの間には、

1-ε=es

の関係が存在するので、大気層の光学的厚さτsは地上水蒸気圧e0を用いて、

τs=-ln(1-0.599e00.090

と近似表現される。従って、地上水蒸気圧がe0で地心太陽距離がRの時の地表面温度Tsは、

Ts4={1-(1/2)ln(1-0.599e00.090}{I0(1-α)/(4σR)}

と表現できることになる。
 I0=1367Wm-2、α=0.31として、地球が現在の場所(R=1.00)、火星(R=1.383)および金星(R=0.656)の場所にあって、地上水蒸気圧.が0から徐々に増加する場合の地上気温の変化を上式で計算すると下図のような結果が得られる。大気が全く存在しない場合、即ち、e=0の場合の、現在の火星、地球、金星の位置のおける地表面温度は、それぞれ、205.7K、253.9K、298.6Kとなる。いずれの位置においても、地上水蒸気圧の増加とともに平衡地表面温度は徐々に増加し、地上水蒸気圧が250hPa以上の領域になると急激に増加する傾向にある。ところが、水蒸気圧には温度ごとに存在できる最大の圧力、いわゆる飽和水水蒸気圧が存在する。図中の赤実線は飽和水蒸気圧-地上温度曲線である。この曲線より下の領域では水蒸気としては存在できず、273.15K以下の場合には氷、273.15K以上の場合には液体の水としてしか存在できない。このため、地球が火星の位置にある場合は0.04hPa程度以上の地上水蒸気圧を取ることができず、平衡地表面温度は220K程度以上にはなれず、温室効果による昇温は14K強に留まる。同じく、地球が現在の地球の位置にある場合は25.5hPa程度以上の地上水蒸気圧を取ることができず、平衡地表面温度は294.5K程度以上にはなれず、温室効果による昇温は41K弱に留まる。ところが、地球が金星の位置にある場合は平衡地表面温度がどんなに高温になっても水蒸気圧が飽和水蒸気圧に達する事態は発生せず、水蒸気圧の増加に伴って平衡地表面温度は急激に増加し、温室効果による昇温は無限大となってしまう。このような温室効果の振る舞いを暴走温室効果と呼ぶ。
 暴走温室効果が生じるか否かは太陽からの距離の大小による。惑星内部から温室効果気体を含む気体を噴出して原始惑星大気が形成される時、太陽から遠い惑星では太陽定数が小さいことが原因となり低温であるためわずかの量の原始惑星大気が形成された時点で温室効果が一定値に留まり、その後に噴出される気体は凝結して海洋が形成される。これに対して、太陽に近い惑星では太陽定数が大きいことが原因となり高温であるため大量の原始惑星大気が形成されても飽和水蒸気圧がより大きくなり温室効果が止まらない暴走温室効果の状態になり、極めて高温な厚い大気層が形成され、海洋は形成されない。

飽和 (saturation)
 液体の水と気体の水(水蒸気)が共存して平衡状態を形成している状態。
飽和水蒸気圧 (saturation water vapour pressure)
 気温で定まる空間に含まれる水蒸気の分圧の限界値で、液体の水と気体の水(水蒸気)が共存して平衡状態にある時の水蒸気分圧に等しい。通常、未飽和の実際の水蒸気圧をeと表記するのに対して、飽和水蒸気圧をEと表記する。飽和水蒸気圧Eは気温Tの関数である。気象庁現業ではGoff-Grachの式が用いられているが、通常の気象学的な考察・計算においては、Tetens(1930)の式、

E(t)=6.11×107.5t/(237.3+t)

が多用される。沸点(100℃)における飽和水蒸気圧は1013.245hPaであるのに対して、Tetens(1930)の式は1022hPaに達し、約9hPa過大であるが、相対誤差は1%に満たない。当然のことながら0℃においては誤差は0であり、通常の気象現象において100℃付近の高温での凝結は出現しないので、通常の気象学的な考察・計算においてTetens(1930)の式の精度が問題視されることはない。
 1013.245hPaの圧力における同一成分の気相と液相が共存する温度が沸点と定義され、水の沸点は100℃であり、水と水蒸気が共存するのは100℃の時のみで、100℃以上の温度では全て気相となり、100℃以下の温度では水は全て液相になることが周知されている。このため、実際の大気中においても、100℃以下の温度では蒸発は生じず、蒸発は沸騰の際にのみ生じる、と思い込んでいる学生が実在する。実際には、100℃以下の低温状態にあっても水は蒸発し、大気中には一定量の水蒸気が含まれている。この矛盾は、沸点の定義が空間に水と水蒸気のみが共存している場を想定しているのに対して、実際の自然界の気相には水蒸気以外に乾燥空気が共存していることに起因している。つまり、実際の自然界における水と水蒸気の平衡状態は、1013.245hPaの圧力における純粋な液体の水と乾燥空気と水蒸気が共存することによって生じているので、圧力1013.245hPaの純粋な液体の水と全圧が1013.245hPaの乾燥空気と水蒸気の混合気体が平衡状態にある状況を考える必要がある。
 温度Tで空間に純粋な液体の水と水蒸気しか存在していない場合に、圧力Psの純粋な液体の水と圧力Psの水蒸気が平衡状態にある時、この圧力Psを飽和水蒸気圧と定義し、E(T)と表記する。平衡状態は、水蒸気のギブス自由エネルギーGgと純粋な液体の水のギブス自由エネルギーGが等しい時に出現する。ギブス自由エネルギーG

G=U+PV-TS

と定義される。ここで、U;内部エネルギー、P;圧力、V;体積、T;温度、S;エントロピーであり、ギブス自由エネルギーGは温度Tと圧力Pの関数である。従って、温度Tで空間に純粋な液体の水と水蒸気しか存在せずに、圧力E(T)の純粋な液体の水と圧力E(T)の水蒸気が平衡状態にある状況では、温度T、圧力E(T)で水蒸気と純粋な液体の水が共存するので、

Gg(T, E(T))= G(T, E(T))

が成り立つ。
 この状態で、温度を
Tに保ったまま、気相に乾燥空気を混合させることを考えよう。当然、気相の全圧力はE(T)より増加してPになるが、水蒸気圧もE(T)に固定されているのではなく、乾燥空気の混合量の増加とともに水蒸気圧も増加してP2になる。ギブス自由エネルギーGの全微分は

dG=dU+PdV+VdP-TdS-SdT

であるが、可逆過程においては、

dU+ PdV=TdS

なので、

dG=VdP-SdT

である。さらに、今は、温度をTに保った等温過程であるから

dG=VdP

である。
 
1molの水蒸気の体積Vgは、状態方程式より、

Vg=RT/P

であるから、

dGg=RTdP/P

である。ここで、R;普遍気体定数(=8314J/mol)である。つまり、乾燥空気が付加されて圧力がE(T)からPに増加したことに対応して水蒸気圧がE(T)からP2に変化したした場合の水蒸気のギブス自由エネルギーの増加ΔGg

ΔGg=RTn(P2/E(T))

となる。
 一方、
1molの純粋な液体の水の体積Vは圧力依存性が無視できて一定(=1.0×10-6m3)であるとすると、

dG=VdP

であるから、乾燥空気が付加されて気相の全圧力がE(T)からPに増加したことによる液相のギブス自由エネルギーの増加ΔG

ΔG=V(P-E(T))

となる。温度T、圧力Pにおいても平衡状態が保たれるためには、

ΔGg=ΔG

でなくてはならないから、

RTn(P2/E(T))=V(P-E(T))

が成り立つ必要がある。これを、P2について解くと、

P2=E(T)exp{V(P-E(T))/RT}

が得られる。つまり、温度Tでの飽和水蒸気圧E(T)よりexp{V(P-E(T))/RT}倍大きい分圧P2の水蒸気と圧力Pの純粋な液体の水が共存する平衡状態が出現する。
 平衡状態にある水蒸気分圧P2とその温度での飽和水蒸気圧E(T)の比exp{V(P-E(T))/RT}の具体的な値を求めてみよう。温度TをK単位、圧力PをhPa単位で表す場合、定数部の値はV/R= 1.2×10-8と極めて小さい正の値となる。この値に乾燥空気の分圧(P-E(T))を掛け、温度Tで割った結果も極めて小さい。全圧P1013.245hPaの場合、温度T=0=273.15Kの時、exp{V(1013.245-6.11)/273.15R}=1.000000044であり、温度T=100=373.15Kの時、exp{V(1013.245-1013.245)/373.15R}=1.000000000であると見積もられる。気象学に於ける水蒸気圧の測定精度はせいぜい3桁程度であるので、平衡状態にある水蒸気分圧P2とその温度での飽和水蒸気圧E(T)の比exp{V(P-E(T))/RT}の値は常に1.000と見做して差し支えないと判断される。つまり、気象学的な利用の範囲内であれば、

P2=E(T)

と見做して差し支えず、水の沸騰は気圧と飽和水蒸気圧が等しくなった時、即ち温度が沸点に達した時しか生じないが、水面からの蒸発は温度が沸点より低温であっても生じ、それは水面に接する大気中の水蒸気分圧が飽和水蒸気圧に達するまで持続する、と結論付けることができる。
 上記の飽和水蒸気圧は、水蒸気と純粋な液体の水が水平な水面を挟んで平衡状態にある時のものである。水面が曲率を持つ場合、液体の水が塩分を含む場合、また液体の水が氷の場合、いづれも、飽和水蒸気圧は低下することが知られている。
飽和相当温位 (saturation equivalent potential temperature, equivalent potential temperature of a hypothetically saturated atmosphere )
 現在は未飽和の大気塊が水蒸気量以外は変化せずに飽和状態になると仮定した際の相当温位を飽和相当温位あるいは飽和を仮定した相当温位と呼び、θe*と表記する。飽和相当温位は、未飽和空気塊に対する相当温位θeの定義式

θe=θexp{ℓxs(TLCL)/CpTLCL}

において、

TLCL=T

としたもの、即ち、

θe*=θexp{ℓxs(T)/CpT}

である。ここで、θ;温位、ℓ;潜熱、xs;飽和混合比、TLCL;凝結温度、Cp;乾燥空気の定圧比熱である。現在の気温Tにおける飽和水蒸気圧E(T)を用いて、

xs(T)=εE(T)/p

とする。
飽和相当温位θe*は飽和断熱過程で保存される。

∂θe*/∂z<0

の気層は、現在は安定であるが、その場所で飽和すれば不安定になることを意味しており、条件付不安定と呼ばれる。
飽和度 (saturation ratio)
 土壌物理学では、土壌の全空隙体積に対する水物質の体積の比を飽和度と呼ぶが、気象学では、水平な水面上の飽和水蒸気圧に対する曲率を持つ水面上の飽和水蒸気圧の比を飽和度と呼ぶ。
ボーエン比 (Bowen ratio)

 地表面における顕熱輸送量Hの潜熱輸送量ℓEに対する比 H/ℓE をボーエン比と呼び、βと表記する。即ち、

β=H/ℓE

である。ここで、ℓ;蒸発の潜熱、E;蒸発量である。
熱と水蒸気の伝導係数が等しく、Kと置けるとすると、顕熱輸送量Hと潜熱輸送量ℓEは、それぞれ、

H=cpρKdT/dz

ℓE=(εℓ/p)ρKde/dz

と表される。ここで、cp;空気の定圧比熱、ρ;空気の密度、dT/dz;気温勾配、ε;密度比、p;気圧、de/dz;水蒸気圧勾配である。従って、両者の比であるボーエン比βは

β=H/ℓE=(cpp/εℓ)dT/de

と表現できる。即ち、ボーエン比は、気温勾配と水蒸気圧勾配に比に比例し、比例定数は乾湿計定数である。
地表面熱収支式は

Rn-G=H+ℓE

と表されるから、ボーエン比βを用いると、

Rn-G=(1+β)ℓE

或いは

Rn-G=(1+1/β)H

となる。ここで、Rn;放射収支、G;地中熱流量である。従って、顕熱輸送量Hと潜熱輸送量ℓEはボーエン比を用いて表すことができ、それぞれ、

ℓE=(Rn-G)/(1+β)

H=(Rn-G)/(1+1/β)

となる。この関係を用いて地表面有効エネルギー Rn-G から顕熱輸送量Hや潜熱輸送量ℓEを求める方法は、ボーエン比法と呼ばれる。

ボーエン比法 (Bowen ratio method, energy balance Bowen ratio method, Bowen ratio energy balance method)

 ボーエン比H/ℓE(顕熱輸送量Hの潜熱輸送量ℓEに対する比) を用いて地表面有効エネルギーから顕熱輸送量Hや潜熱輸送量ℓEを求める方法をボーエン比法と呼ぶ。熱収支ボーエン比(EBBR)法とかボーエン比熱収支(BREB)法と呼ばれることもある。

北極振動 (Arctic oscillation)

 北緯20度以北の北半球における海面気圧偏差場の主成分分析によって得られる寄与率が約20%に達する第1主成分を北極振動と呼ぶ。北極振動は、北極振動指数の値(第1主成分得点)が大きな正の値の時(極渦が強い時)には北極域の気圧が負偏差を示す一方で、中緯度の海上を中心に正偏差を示し、北極振動指数の値が大きな負の値の時には逆のパターンとなる、北極域と中緯度の気圧のほぼ環状のシーソー的変動とされている。北極振動と同様の現象が、南極域にも認められ、南極振動と呼ばれている。

(http://www.cpc.ncep.noaa.gov/products/precip/CWlink/daily_ao_index/new.ao.loading.gifより)

北極振動は成層圏にまで帯状風や気圧の偏差が及ぶ背の高い構造を持っており、北欧〜ユーラシア域の天候への影響が大きく、過去数十年の高緯度気温上昇トレンドや地球温暖化等のさまざまな気候変動に関連している可能性がある。
北極振動指数が高い状態(左下図)は、北極の成層圏気温や地上気圧が低く低緯度地方から暖気が流れ込見やすい中緯度は温暖となるためwarm phaseと呼ばれ、逆に、北極振動指数が低い状態(右下図)は、北極の成層圏気温や地上気圧が高く中緯度の波数3の気圧の谷の地域に向かって冷気が流出するためcool phaseと呼ばれる。

(http://nsidc.org/arcticmet/images/patterns/arctic_oscillation.jpgより)

 

北極振動指数 (Arctic oscillation index)

 北極振動の強さを表現するための指標。北緯20度以北の北半球における海面気圧偏差場の主成分分析によって得られる第1主成分得点が北極振動指数として定義されている。下図は、1950年以降の北極振動指数の3ヶ月移動平均の時系列である。赤色で示されている高指数時は中緯度地方へは寒気が流出しにくいのでwarm phaseと呼ばれ、青色で示されている低指数時は中緯度地方へ寒気が流出しやすいのでcool phaseと呼ばれる。


(http://www.cpc.ncep.noaa.gov/products/precip/CWlink/daily_ao_index/month.ao.gifより)

わが国では平成17年12月末〜平成18年1月初に多くの気象官署で最深積雪の記録が更新され、その原因として「北極振動」が新聞等により報道されたため、一般にも知られるようになった。しかし、北極振動指数が他の年に比べて著しく小さいとは言いがたい状況である。新潟県上越市の気象庁高田測候所の多雪年は、1963(昭和38)年、1981(昭和56)年、1984(昭和59)年、1985(昭和60)年、1986(昭和61)年であるが、これらの冬近傍において北極振動指数が特に著しく小さかったとは即断できそうにはない。

ポーラーステレオ図法 (polar stereo projection)
 地球の一方の極に置いた光源から光を出して、軸が地軸と一致する投影面上に地球表面上の点を投影して2次元の図を作成する図法。全部邦語だと正軸平射図法と記載されるべき名称。図法を完全に同定するためには、投影面の形状と投影面の位置に関する情報を示す必要があるが、通常は、投影面の形状は平面で、投影面の位置は光源と反対の極に接しているpolar tangent azimuthal stereo projection(正軸接方位平射図法)乃至は、投影面の形状は平面で、投影面の位置は光源と反対の極付近の緯度円を含んでいるpolar secant azimuth stereo projection(正軸割方位平射図法)を指す場合が多い。
地球を完全な球と仮定すると、投影面が北緯φsを含む場合の北緯φ、東経λの地点のpolar secant azimuthal stereo projection(正軸割方位平射図法)による投影面上の座標xとyは

x=R{(1+sinφs)cosφ/(1+sinφ)}sin(λ-λ0)

y=R{(1+sinφs)cosφ/(1+sinφ)}cos(λ-λ0)

として定まる。ここで、R;地球の半径(=6371.0km)、λ0;投影面の下方向と一致させる東経である。投影面を北極点における接面とするpolar tangent azimuthal stereo projection(正軸接方位平射図法)の場合は、φs=π/2なので、

x=2R{cosφ/(1+sinφ)}sin(λ-λ0)=12742.0{cosφ/(1+sinφ)}sin(λ-λ0)

y=2R{cosφ/(1+sinφ)}cos(λ-λ0)=12742.0{cosφ/(1+sinφ)}cos(λ-λ0)

となる。
わが国の気象学分野で見かけるポーラーステレオ図法を用いた画像情報の代表的な例としては、MTSAT(ひまわり6号)のEast Asia(東アジア)地域画像をあげることができる。


(http://www.jma.go.jp/en/gms/imgs/0/infrared/1/200510310000-00.pngより)

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