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大分の名水


週(月...)に数カ所程度のペースで掲載する予定です.ご支援ご協力の程お願いいたします.
  どなたか見栄えの良いHP作成を手伝って頂けるとありがたいのですが...
大分県の名水に関する私のこれまでの研究概要が,辻野功編(2003):「大分学・大分楽」明石書店(定価2000円).に,第五章「大分の伝説の水を科学する」と題して掲載しています.興味のある方はご覧頂ければ幸いです.

 おおいたの名水200選+α
 大分の秘水:おおいたの名水200選から人の訪れることがあまり無い,名水中の名水を選んでみました




国東半島地域

★金水銀水(仁聞の隠し水):豊後高田市

 この名水は国東半島六郷満山の開祖,仁聞菩薩の隠し水ともいわれ,地元の人でさえ滅多に訪れることのない,幻の水である.西叡山西麓の川をさかのぼり,途中から東進し,道なき道を行き,1時間半ほど岩場をよじ登ったところに,オーバーハング状の奥行き5m,高さ0.5mほどの岩窟がある.その中に清冽な水が静かに湧き出している.この岩窟は左右二つに分かれており,向かって右が金水,左が銀水といわれている.残念ながら私が訪れた2003.年3月には左側の岩窟はほぼ埋まっており,銀水を確認することはできなかった.案内して頂いた方の話では,金水の鮮明な写真はこれが初めてということであった.
 この岩窟からほんのわずか岩場をよじ登ると,やはり仁聞ゆかりの修行の場といわれる戸無し戸の口が望見できる.金水銀水もそうだが,この戸無し戸の口を肉眼で見た人の数はごく僅かといわれ,この岩窟に近づいたものは病気になる,などの伝説も伝えられていることから,本当に幻の地域といって良いであろう.
 ところで日本各地には金水銀水と呼ばれる湧水が数カ所知られている.特に,香川県四国八十八カ所結願寺である大窪寺奥の院にある金水銀水は1mほど離れた岩の窪みに湧き出しており,確かに金色,銀色のように見える.実際は銀水が無色透明な清冽な水であるのに対して,金水は黄色っぽい浮遊物が含まれているために金色に見えるようである.まだ確かめたわけではないのだが,中央構造線沿いに分布する湧水の中には,黄色の浮遊物がみられるものがあり,豊後高田市や大窪寺の金水も断層沿いにあることから,断層に由来する物質により金色にみえる水が湧出するものと考えている.
 なお私の調査時点で西叡山の金水銀水を訪れるには地元の方の案内が必要である.有志の方が,登山道の整備をする予定があるので,行きたい方は整備がすむのを待ってから訪れるのが無難である.また,水も簡単には汲めず,低い洞窟の中を泥だらけになりながら這っていく必要がある.

★熊兵衛井戸:豊後高田市
 弘法大師の伝説のある湧水である.

★五両の水:豊後高田市
 詳しい伝承が伝えられていないのだが,かなり古い文献(江戸時代頃)に五両の水として記載されている.おそらく百貫清水などと同様,非常に美味しい水だったので五両の価値があるとして伝えられた水なのだろう.現在でも民家の生活用水として利用されている.

★雨引社の水:豊後高田市
 

★拍子水:姫島村
 

★タタラ迫水飲場:国見町
 小さく見える祠の下から国東半島では最大規模の湧水がみられる.

★田中社御供水:国見町
 奥に見える神社が田中社で,武多津神社の祭礼時に御供水として供される霊水である.普段は川筋にある田の農業用水として利用されている.雲崎井戸同様,六角形のふたと井戸枠があるのが興味深い点である.

★ランプ屋湧水:国見町
 このあたりを清水地区と呼び,その由来ともなった生活用水である.この水の水温は20℃以上あり,その熱源が不明となっている.冬になるとあたりには湯気が立ちこめる様子が見られる.正式な名称ではないが,昔近くにランプ屋があったことから,このように呼ぶ人もいるようである.

★鬼の敷水:安岐町
 その名称の由来は不明.

★走水観音の霊水:安岐町
 両子寺の七不思議の一つで,古来涸渇したことがない湧水といわれている.確かに山頂直下にあるので,その涵養域はごく狭いものと推定できるが,このあたりは国東半島の第三紀層の上に第四紀火山噴出物が堆積し,よい帯水層を形成している.付近にも同様の涵養湧出機構を持つと考えられる名水が散見できる.


★清滝観音の霊水:国東町
 文字仙寺近くにある清滝観音にある湧水で,この付近の他の湧水同様に古来涸渇したことがないと言われている.山頂直下にあるので,その涵養域はごく狭いものと推定できるが,このあたりは国東半島の第三紀層の上に第四紀火山噴出物が堆積し,よい帯水層を形成している.

★文殊の水:国東町泉福寺
 泉福寺奥にある開山縁起にもなった湧水である.文殊仙寺の智恵の水同様,頭の良くなる水として知られるが,他の伝説では「冬枯れの水」として紹介されている.現在はほぼ涸渇状態で水を汲むことはできない.

★清水寺の霊水:大田村沓掛清水寺
 大分県が選定した豊の国名水の一つで,不老長寿の水として今日に伝えられている.宝陀寺に隣接する歴史の古い清水寺の境内の一角にある岩山から湧出する清水は,遠く平安の昔から水量に変化がなく,どんな大雨や干ばつ時でも影響を受けたことがないといわれている.年間を通して湧出量は変化せず,今日でも付近の田畑を潤している.この水は「不老長寿の水」として知られ,胃腸病にも効能があるといわれ,県外から訪れる人も多い.

★弘法大師の霊水:真玉町椿堂・椿光寺
椿堂の弘法大師の霊水 椿光寺の弘法大師の霊水  弘法大師の霊水は,1,200年の歴史を持つ真玉町椿堂および椿光寺の境内の岩窟内から湧出する.別名を椿大師の御霊水ともいわれ,ごく僅かな湧出量にも関わらず,万病に霊験のある水として参詣する人が絶えない.弘法大師の霊水はその名の通り弘法大師由来の湧水で,大分県内には弘法大師にちなんだ多くの湧水が存在している.いずれの湧水も,水の得られない地域の人々が干ばつで苦しんでいるのを見かねた弘法大師が,杖を突き立てたところ湧出したといわれており,水資源の乏しい地域に生活する人々の命の水として大切に利用されてきた名水である.



大分県北部地域


★鎌倉井戸(乳貰い水):中津市
 鎌倉時代,北条時頼が錫杖で掘ったいわれ,乳の出が悪い妊婦にこの水で炊いたご飯を食べさせると乳がでるようになるという伝説がある.河岸段丘崖下の民家と土手にはさまれた全く周りから見通すことができないところにこの湧水はある.しかし,小さいながらもお地蔵様がまつられており,きれいに整備されている.今でも乳の出の悪い女性が訪れるとのことであった.
 このような乳の出の良くなる水や,お産の軽くなる水,つわりの軽くなる水というのは日本全国に散見できる.これらの水の水質を分析してみると興味深い事実を見いだすことができる.それは,ほとんどすべての湧水で硝酸イオン濃度が異常に高いのである.一般的に肥料による汚染で高濃度で検出されることがよくあるが,これらの湧水の多くは,人為的な汚染の考えにくい地点から湧出している.医学的な関係は私には知るよしもないのだが,硝酸イオン濃度の高い水は,メトヘモグロビン血症(いわゆるブルーベビーシンドローム)を発症させる.硝酸イオンが血液中の赤血球と結合してしまい,酸素を取り入れることができず,窒息死してしまう病気である.妊婦が,硝酸イオンを大量に飲用すると胎児に危険なように思う.ぜひとも医学関係者の研究対象として取り上げていただきたいものである.

★疣石の水:中津市瑞福寺
 湧水ではないが,この水をイボに付けると取れるとされ,信仰の対象となっている水である.大分県にはこのようなイボ水が20ヶ所ほど知られているが,日本各地にも同様のイボ水が知られている.注目すべきは,疣石に溜まった水の水質がかなり異常な値を示し,場合によっては皮膚病に効能のある温泉水に近い水もあることである.先人はイボ水の効能を経験的に知っていたのであろうか.

★御霊水:宇佐市宇佐神宮
 
宇佐神宮の最初の神である三女神が御許山に降りたとき,宇佐神宮境内の菱形池の御神水のところに神馬の足跡がついたといわれ,八角形の台石の上に「験」の字が刻まれている.この水は万病に効能があるとされ,現在でも参詣客が水を汲んで帰る姿が見受けられる

★神井:宇佐市宇佐神宮
この神井は宇佐神宮の閼伽水や神官らが利用したと伝えられている.この井戸は,井戸枠が八角形になっている. 河野(2001)は,一般的な井戸枠はその材質(木材,石)に基づく技術的制約から四角形,もしくは丸形にするのが一般的とし,これまでの調査で,日本には六角形,八角形の井戸が40ヶ所程存在することを明らかにした.なぜ六角にするのかという疑問から,まず数字の意味を調べてみると,日本では八は縁起の良い意味で使われるが,六は神聖な数として認識される一方で,墓や地獄などといった事象に通じる数として認識されている.数の意味で六角井戸をとらえた場合,そこには「六」本来の意味とは別の,特別な意味があるに違いないと考えられる. 六角井戸は秋田から沖縄まで,全国各地に見られるが,その分布は京都・奈良,淡路島周辺,長崎に集中する傾向がある.またその半分近くが海岸付近に存在し,弘法伝説のある井戸が6ヶ所ある.中部地方以北の六角井戸は元々あった井戸にあとから六角の枠をつけた井戸が多く,正確には六角井戸とは言い難い井戸が多い.京都・奈良は歴史上の人物や史実に基づく井戸が多く,史蹟となっている.淡路島周辺の井戸は風土記などに登場する古井戸が多く,海岸付近に存在する.長崎の井戸はやはり海岸付近にあり,中国人が築造して南蛮貿易船などへ水を供給した歴史をもっている.沖縄はもともと丸形の井戸に井戸枠を造る際,その材料は石灰岩のブロックを使用した.石灰岩のブロックを組合せるには,小型の井戸は六角,大型は八角にすると効率よく井戸枠を築造できることがその理由となっている.石の文化圏に属する沖縄ならではの井戸といえよう.一方で神奈川県鎌倉市小坪海岸の六角井戸は,実は八角でその2角を逗子側,6角を鎌倉側が使用する水利権を表すために築造された.これは朝夕に井戸使用が集中する際の合理的な対策として六角井戸が築造された典型的な理由と考えることができる.

★化粧井戸:宇佐市北宇佐
 化粧井戸は聖武天皇の神亀元年「隼人の慰霊の為に方生会を奉仕する」との神話によって始められた放生会の儀式に関係する.この井戸の水を使用して,この放生会に奉仕する福岡県吉富町鎮座の古表神社及び中津市伊藤田鎮座の古要神社の御神体である傀儡人形の化粧をするのである.ちなみにこの両神社の傀儡は,隼人征伐に参加し隼人等はこの傀儡にみとれている間に討たれたと伝えられている.

★泉神社湧水:宇佐市辛島
 応永30年(1423)「宇佐宮造営日記」の6月18日の項に,和泉御社の池から17日霊酒が湧き出したという記載がある.この酒は万病に効能があると伝えられ,孝子伝説の一種「酒泉伝説」の一つとなっており,同じような伝説が,別府市の萬太郎清水にも伝えられている. 宇佐神宮に捧げる御神酒を醸造する水として利用されたとも言われている.八幡大神がこの泉で手足を洗ったとも言われ,宇佐大神に酒を奉ったので酒井神社とも呼んでいる.

★乙盗_社御霊水:宇佐市下乙女
 乙盗は,「御霊水」,「ゼミノクチ」などとも呼ばれている.鎌倉時代に記された「八幡宇佐宮御託宣集」によると,奈良時代に八幡神が辛島の酒井神社からこの地に移ったとき,辛島勝乙目が泉を掘って,八幡神の洗浴に関する奉仕をしたとされている.神社名,地名はこの乙目に由来する.
なお乙盗_社は宇佐八幡宮と密接な関係を持ち,710年に創建されたと伝えられている.

★岩鼻の井戸:杵築市谷町
 >案内板には『人間にとって欠かせないものは水である.歩くことが交通の手段であった江戸時代には,道路脇の清水や井戸で喉を潤していた.この井戸は谷町の岩鼻の下にあって,城下町の中の唯一の井戸であった.武士も町人もそして農民も利用し,藩命で井戸さらえもした.水も非常に美しく,夏はこの附近で暫しの憩いをとる人が多かった.』とある.
 しかし,現在はゴミが投げ込まれ,水質も非常に悪く,飲用どころか雑用水でさえ控えるような状態である.かつては,杵築藩第一の名水であったはずである.官民あげて,この由緒ある名水の保全活動が盛んになることを願っている.

★権現水:安心院町
 安心院町の山中に湧出する水量豊富な湧水である.駐車場が無く,歩いて20分程かかる不便な地にあるので,訪れる人は希である.大分で5本の指に入る秘水と言ってよいだろう.

★水沼井:安心院町
 水沼井は三女神の産湯が天から下ったものだといわれ,干天でも涸れず,足の病,万病に効能があるといわれている.水沼井は,その別名を「天真名井」といい,古事記・日本書紀において,高天原(たかまがはら)にある神聖な井戸を意味し、神聖な水につけられる最高位の敬称とされている.「真名井」・「真奈井」・「真那井」・「麻奈井」(丹後国風土記逸文)などとも書き,大分県日出町には「真那井」という地名が残っているが,ここにも昔真名井があったといわれている.安心院町の七不思議にも数えられる名水である.

★御前岳湧水:前津江村御前岳登山道
 豊の国名水十五選に選ばれている名水です.御前岳の登山道入口から20分ほど登ったところから突然大量の水が湧き出している.その量・質ともに男池に並ぶ大分県を代表する名水である.



大分県中部地域


★水の口湧水:山香町南畑
 水の口湧水は鹿鳴越第一の名水で,国東半島の清水寺の霊水とともに豊の国名水に選出された湧水である.湧出量は日量約3,000〜5,000トンで,八坂川の源流となっている.天明4年(1784年)大旱魃が生じたとき,山野の草木は枯死状態となったが,鳥屋岳より水の口湧水に至る地中泉上の草木は緑を保ち,一条の草木で道を連ねたといわれている.付近の住民は毎年7月16日になると常提水神社(水の口水神社)に参拝し,盛大に水祭りを行っている.

★山田湧水:日出町豊岡
 山田湧水は水の口湧水に次ぐ,鹿鳴越第二の名水である.このあたりはかつてザビエルが通ったと伝えられ,彼もこの水を飲んだのかも知れない

★萬太郎清水:別府市朝見
 萬太郎清水はいわゆる養老伝説,子は清水伝説の一つである.

★迫の銭井戸:別府市
 この井戸は銭貸し伝説のある湧水で,きちんと期日を限って借りることを誓えば,お金を借りることができるが,期日を守らないと祟りがあるといわれている.

★火売火女神社の霊水:別府市東山
 鶴見岳登山者が必ずお世話になる霊水.

★竜神の水:別府市志高湖畔
 志高湖畔に湧出口の設けられたアクセスの良い湧水である.志高湖の竜神伝説による命名と考えられる.

★石城寺の加持水:別府市
 石城寺の七不思議に数えられる湧水で,六郷満山の開祖として知られる仁聞の加持水といわれている.

★御前水(お茶の水):大分市下郡
 忠直卿乱行記で知られる松平忠直(大分では愛着を込めて”一伯さん”と呼ばれている)公であるが,大分の地に配流された後はおとなしく暮らしていたようである.その忠直卿は茶人として知られ,その茶の湯に利用された水がこの御前水である.現在は,宅地開発に追われ見る影もない無惨な状態(写真左)になっているが,以前は立派な祠(写真右)があり,大切に利用されていたことが知られる.
この水は典型的な軟水であり,おそらくお茶に適していたことを忠直卿は経験的に知っていたのであろう.このように由緒ある名水が消えていくことは何ともむなしい気持ちがするものである.ぜひとも保全に向けて,地域の人々が立ち上がられることを願っている.
 ところでこのような茶の湯に利用された名水は日本各地に知られているが,大分にも有名人の茶の湯に利用された水が知られている.
 臼杵市にある『近衛水(揚柳水)』は,関白近衛公が利用した茶の湯水として伝えられているが,御前水同様,現在は見る影もなく荒れ果ててしまっている.庄内町にも『殿様の御好水』と呼ばれる名水が伝えられている.この水は名水の里庄内町の大分川が形成する河岸段丘崖下から湧出するが,この名水の持ち主である民家の方の情報では,油脂状の浮遊物がみられることがあるとのことで段丘上の汚染物質が流れこんでいるらしい.

★白髭泉水:大分市松岡
 大分川が形成する河岸段丘の坂道脇にある.この泉自体に伝説,伝承は伝えられていないようであるが,御神木の下の湧水中には希少種である「オオイタサンショウウオ」が棲息している.貴重な生物であり,その場所を詳述することは避けたいと思う.どうか事情を拝察の上ご理解頂きたい.
 以下,解説板より
 『オオイタサンショウウオは,「日本の絶滅のおそれのある野生生物」として1991年に,希少種(生息地が限られている・孤立して分布している・生息条件が悪化しているなど)に指定され,保護対策が求められている.
オオイタサンショウウオは雌の生体で13cm内外,雄では14cm内外で少しだけ大きい.体色は暗褐色や黄褐色をしており,それに灰黒色の斑点が点在しており,一見,イモリやトカゲに似た姿をしている. 通常は山中の岩の割れ目や石垣の間の穴などの暗いところに住み,小さな土壌動物などを捕食している.繁殖期は冬季で,12月頃から翌年の3月頃までである.この頃になると雨の夜に雌雄は水の湧き出ている付近の池や水田,山中の水たまりに入って産卵をする.卵は1ヶ月余りで「ふ化」して幼生(えら呼吸)になり,小型水生昆虫類の幼虫や共食いなどをして成長する.この頃,最初は魚の稚魚みたいになるが,成長するにつれて後足,前足ができて徐々に成体の姿に成長し続ける. 5月から6月頃にかけて歩き始めると,変態(肺呼吸)して山中に入り生活する.小型のサンショウウオの仲間は,寒い冬季に産卵するものが多いが,その理由は,寒気のため,他の動物が冬眠したり,活動が鈍ったりしている間に子育てをする,という闘争に弱い動物が進化の過程で獲得した,種族維持本能であると思われる. 私たちは,この弱い動物の立場を良く理解し,希少価値の高いオオイタサンショウウオの保護に努め,絶滅しないように心掛けましょう.』

★大日寺の水(閼伽水):大分市羽田
 昔大日寺というお寺があり,その閼伽水として利用された湧水である.区画整理により,昔ほどの湧水量はなくなってしまった.

★竜神の池:大分市高尾山
 高尾山にある神社の奥の院にあたり,ある人が竜神が雷に乗って降りてきた夢を見た.翌日その場所に行ってみると懇々と水が湧いていたという.これは津久見市の解脱庵寺に伝わる雷井戸伝説の一種と考えて良いだろう.

★竹田五名水
河宇田湧水 泉水湧水 矢原湧水

長小野鳴滝湧水 長小野塩井湧水
 銘水の里,竹田市内には,70ヶ所もの湧水があるといわれている.中でも竹田湧水群とも呼ばれている『竹田五名水』は,その湧出量,水質から見て抜きん出た存在である.昔から生活用水や灌漑用水,養魚場の水としてとして大切に利用されてきた.中でも,長小野鳴滝湧水は幅7〜8mにわたって幾筋もの水を噴き出しており,土地の人々は「山のしずく」と呼んでいる.元来牛馬神が祀られていたもので,昔不治の病に苦しむ人がこの滝の水を飲んだところ病が治ったという言い伝えがあり,今もなお近郷の人々の信仰の対象とされている.
 ここ竹田の地では,山頭火や滝廉太郎,川端康成ら文人墨客がこよなく愛した竹田五名水を今でも思う存分堪能できる. 山頭火がここ竹田の地で句を残している. この句はどの湧水を指すものか,想像しながら歩くのも一興である.

酔ひざめの 水を探すや 竹田の宿で

★男池:庄内町阿蘇野
 1985年当時の環境庁が日本名水百選に選定した,大分を代表する名水である.毎秒300g以上の湧出量を示し,夏の土日ともなると狭い林道が大渋滞になり,大行列ができる.朝日長者の姫にまつわる悲しい伝説もありますが,そんな話は今時誰も知らないのであろう.
 ところで,男池の水質は硫酸イオンとマグネシウムイオンが大量含まれている.ヨーロッパの硬水ほどではないが,日本の名水の中では群を抜く硬度の高さと言って良い.また,水質成分から言うと,多少を苦みを感じておかしくないが,その水温の低さと環境の良さが,この上ない美味として私たちを満足させてくれる.硫酸イオンが多いので,腐りにくいことも男池の人気の秘密であろう.

 1995年くじゅう連山の一つ硫黄山が噴火したことは記憶に新しい.くじゅう山周辺には男池をはじめとして多くの名水が知られている.その中で老野湧水と男池は,この噴火前後で不思議な現象が観測された(河野、1999).男池の場合、噴火の半年ほど前から12℃であった水温がじわじわと上昇し始め、噴火直前に12.5℃になったのである。そして気象庁が終息宣言を出した,1986年秋頃に再び12℃に戻っている.同時に水質も大きく変化していることがわかった.男池の水質は,くじゅう連山地下にある熱水系の影響を受けているらしく、硫黄山の噴火も熱水系との関係を指摘されていることから,その影響が男池に現れたものと考えて良さそうである.男池の水温を継続的に観測することにより、噴火予知に役立てることができる可能性も考えられる.

★かくし水:庄内町阿蘇野
 男池から黒岳登山道の途中にある.季節によっては涸渇することもあるが,登山者にとっては一服の清涼剤となっている.

★阿弥陀水:庄内町
 庄内町山奥の杉林の中に何故か阿弥陀様がぽつんと立っている.その足下から清冽な水が湧いている.由緒ある水と考えられるが,その由来は不明.

★諏訪神社湧水:庄内町平石
 庄内町のみならず,その水量,水質共に大分を代表する名水といってよい.

★老野湧水:久住町老野
 豊の国15名水にも選出された久住高原を代表する名水である.この付近には南北方向に7つの湧水が存在し,老野七名水とも呼ばれている.
 この老野湧水では,非常に興味深い現象が観測された.1995年10月のくじゅう連山硫黄岳の噴火の際,その湧出量と水質が大きく変動したのである.河野(2000)からその概要を記すと,まず噴火の1年前から涸渇してしまった.これは,付近住民の話では前例のないことであった.その後,噴火半年ほど前になって再湧出し始めた.また,噴火半年後になって水温が2℃以上,急激に上昇し,2-3ヶ月で元の水温に戻ったのである.水質も大きく変動し,湧出量の少なくなる冬から春にかけて硫酸イオン濃度が上昇し,湧出量が増加するに従って,その濃度が減少する現象が観測された.硫黄山から老野湧水までの距離を,半年かけて地下水が移動したと考えると水文地質条件などから,ほぼ妥当な値であると推定された.
 このように,噴火前後で不思議な現象が観測されたことは,今後の噴火予知にも役立てることができそうである.同様の噴火前後の湧出量,水質の変動はくじゅう連山の北側にある男池でも観測された.

  河野 忠(2000):硫黄山噴火前後の周辺湧水の動向.大分県温泉調査研究会報告,No.51.

★老野湧水の滝:久住町老野
 老野湧水下流100m程にある名水で,滝の上部に湧出口がある.横には,この水を利用して美味しい手作りの田舎料理を食べさせてくれるお店がある.
 地形図上では,老野湧水と異なる涵養域を持っているように見えるが,更に下流の迫田湧水ともども水質はほぼ同じである.

★納池湧水:久住町青柳
 納池公園の案内板によると,「昭和十八年七月十三日県指定名勝 納池公園 この公園は,南北約250m,東西約50mと細長く,面積はおよそ1.2haあります.このうち約三分の一を湧水池が占め,周囲にはスギやタブ,カシの古木大樹が生い茂る壮麗な天然のすぐれた公園であります.古くに白丹南山城主志賀氏(十四〜十六世紀)の遊楽地に利用されたのにはじまり江戸初期には肥後藩主加藤清正も公衆の遊楽地にしたと伝えられています.明治六年(1873)には太政官布告により東京の浅草,上野,京都の嵐山などとならんで地域公園とされた由緒ある公園でもあります.公園の東側には納池神社があります.  久住町教育委員会」とある.
 写真をご覧頂いて解るとおり,案内板通り,壮麗,幽玄の世界が広がっている.夏にもなると,その涼とおいしい名水を求めて,ハイキングに訪れる人が絶えない.


 


★山の神湧水:久住町
 久住高原最上流部にある湧水である.水源地となっており,立ち入ることはできないが,久住で最も水質の良い水の一つである.


 


★仙人の水:久住町
 久住高原最上流部にある湧水で,国道442号線沿いにパイプで引いてある水はこの水を使用している.


 


★白水の滝:荻町陽目
 
阿蘇野外輪山に涵養された地下水が突然滝となって流れ落ち,その湧出量は毎秒1-2トンにも達する第一級の湧水である.

 

 

 

 


 


★念仏水:九重町
 飯田高原七不思議の一つとされ,湧水池から絶えず既報が上がり,その音がブツブツと念仏をあげているように聞こえるのでこの名がある.

 

 

 

 

 

 



大分県南部地域

★神の井:佐伯市大入島

 


 


★狩生の名水:佐伯市狩生
 


 

 


★安井(あんせい):佐伯市
 
佐伯市にある名水.江戸時代の藩医今泉元甫が水飢饉で苦しむ人々のために私財をなげうって掘った三つの井戸の一つ.近くには甘井,唖井もあり,三義井(さんぎせい)と呼んでいる.
 


★清水川:上浦町浅海井
 



 


★楯ヶ城原始の水:野津町白岩
 野津町が最近売り出し中の湧水が,この楯ヶ城原始の水です.野津町から本匠村へ抜ける楯ヶ城トンネルを掘削したところ,湧き出した湧水で,毎秒100g以上の県内有数の水量を誇る湧水で ある.県南には湧水の数も湧出量も少ないので,この湧水の存在は貴重である.現在では噂が広まり,土日に限らず大勢の人が訪れている.
 ところで,この湧水の水質は一風変わっている.一般項目ではカルシウムイオン,重炭酸イオン,硫酸イオンが大量に含まれている.この水を使用してお湯を沸かすと,おそらく底に炭酸カルシウムの白い膜ができるはずで ある.この地域周辺の地質には石灰岩が狭在しており,長い年月をかけて流動している間に溶け込んだのであろう.火山帯ではないにもかかわらず硫酸イオンが多いことは説明しがたいが,岩石の中には硫酸イオンが溶出しやすいものもあるので,その影響が考えられ る.また,もう一つの特徴として,酸化還元電位が異常に低く,マイナスを示すことがあげられる.最近,健康によい水うんぬんで,活性水素が含まれている水が脚光を浴びてい るが,この湧水にも活性水素が含まれている可能性がある.まだ研究待ちの段階で断定はできないが,活性水素の研究が進めば面白い結果が出るかも知れない.
 


★清水:野津町清水原
 
昔から野津町の上水道水源として,また農業用水として大切に利用されてきた名水である.石灰岩地帯であるので,若干硬度が高いのが特徴である.
 この清水は面白い利用法が見られ,普段は大量の湧水が石灰岩から流出している光景が見られるが,田の水面よりも低いため,そのまま農業用水として利用することができない.そこで,田植え期になると下流で水を堰き止めて,水位を上げて利用する.この写真は水位が上がっている状態で,6-9月の間だけ見られる光景である.

 


★道の駅やよいの水:弥生町上小倉
 弥生町役場から国道10号線の南方300mに「道の駅やよい」がある.そこで汲み上げているのが,この水である.この水自体にはなんの伝承もないが,小倉というこの地には,かつて非常に水質の良い水で知られた土地である.おそらくその流れを汲む水であるのだろう.そのアクセスの良さから大勢の人が訪れている.


 


★赤木名水:直川村赤木
 直川村にある鉱泉センターへ向かう道路脇にある.大分県の南部地域は,典型的な堆積岩地域であり,大量の湧水は期待できない地域でもある.その中で昔から生活用水として利用されていた貴重な名水である.


 


★塩井:宇目町塩見園
  宇目の七不思議に数えられる名水で,山中にあるにもかかわらず,潮汐に応じて湧出量が変化するといわれている.また,昔は海水が湧き出ていたとも伝えられている.

 

 

 

 

 

 


★蓮光寺湧水:宇目町木浦鉱山
  豊の国名水十五選にも選ばれた大分県南部を代表する湧水.

 

 

 

 

 

 

 


★真弓湧水:宇目町真弓
  桑の原トンネル出口にあったゼロウォーター騒動によって新たに整備された湧水.アクセスが悪いので訪れる人は少ないが,水量,水質共にすぐれた湧水の一つである.ゼロウォーターは未だに元栓が閉められ採水はできない.

 

 

 

 

 

 


★居立の井:米水津村小浦
 神武天皇が上陸した際,水がなかったので弓矢で地を穿ったところ水が出た,という伝説のある名水である.佐伯市大入島の「神の井」と同じ伝説,現象が見られる.2004年2月11日時点で砂に埋没.



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