宝石サンゴの化学:骨軸の微量成分と生息場所

 
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宝石サンゴの化学:骨軸の微量成分と生息場所
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  宝石サンゴの骨軸は、バイオミネラリゼーションにより形成される無機鉱物です。海水の主要溶存成分であるカルシウムイオンと重炭酸イオンより炭酸カルシウムのカルサイト(表1)をつくり、多数の微小な「骨片」(図1)と樹木状の「骨軸」を形成します。
 宝石サンゴの骨軸は、研磨すると赤、桃、白色の美しい光沢が生じることから宝石の材料となります。赤色成分としては、カロテノイド色素のカンタキサンチン(図2)が同定されています。カロテノイドは、ニンジン、トマト、カボチャ等の植物だけでなく、フラミンゴの羽毛やサケ、マスの魚肉、伊勢海老等の動物に広く存在する色素です。一方、造礁サンゴが形成する硬組織は、同じ炭酸カルシウムであってもアラゴナイト(表1)で、全体に細かな隙間が多く脆いので宝石にはなりません。
 宝石サンゴのバイオミネラリゼーションでは、主要成分である炭酸カルシウム以外の微量元素(主にマグネシウム、ストロンチウム、バリウム等のアルカリ土類金属や硫酸イオン)が不純物として周囲から骨軸中に取り込まれます。微量無機成分の含有量は、骨軸の内部から表層に向かっての成長過程において規則的に変化し、その結果、宝石サンゴの骨軸断面には同心円状の成長輪(年輪)が形成されます(図3)。また、微量無機成分の組成比は、生息環境や海水中成分によっても変化します。世界の主要生息地から採取した宝石サンゴ骨軸中におけるマグネシウム/カルシウム比(Mg/Ca比)、バリウム/カルシウム比Ba/Ca比を調べると、各組成比は宝石サンゴの産地によって特徴的な値を示します(図4)。宝石サンゴ中の微量元素は、生息環境や採取地を示す重要な科学的データとしての役割が期待されます。  (金沢大学 長谷川浩)

 <文献>
●長谷川浩, 2013.  微量成分分析から宝石サンゴの謎を解明する. 化学と教育. 6月号
●Hasegawa. H. ,  Rahman. M. A. ,  Luan. N.T. ,  Maki. T. and Iwasaki. N. , 2012.  Trace elements in Corallium spp. as indicators for origin and habitat. Journal of Experimental Marine Biology and Ecology,  414-415,  1–5.
●長谷川浩・岩崎望,  2010. 宝石サンゴ資源の指標としての微量元素の利用. 海洋と生物. 32 (1) ,  50-55.
●岩崎望・鈴木知彦,  2008. 宝石サンゴの生物学. 岩崎望編. 珊瑚の文化誌—宝石サンゴをめぐる科学・文化・歴史. 東海大学出版会,  3-17.
スペース
表1 炭酸カルシウムの結晶形
炭酸カルシウムのの結晶形 スペース


色素成分
図2 宝石サンゴの色素成分:宝石サンゴの骨軸の赤色成分は、20世紀中頃まで鉄の錯塩と考えられていたが、現在ではカロテノイド系色素のカンタキサンチンであることが分かっている。宝石サンゴはカロテノイドをつくるために必要なゲラニルゲラニル二リン酸を生合成できないため、エサとして摂取した有機物粒子(植物プランクトンの遺骸を含む)からカロテノイドを得る。
  骨片の電子顕微鏡写真
図1 体内(共肉部)に含まれる骨片の電子顕微鏡写真:宝石サンゴの共肉部には、直径30-60マイクロメートル程の大きさの骨片が分布している。骨軸と同じカルサイトからできているが、骨軸形成との関連はまだ分かっていない(図 岩崎・鈴木 2008)。

シロサンゴ骨軸断面
図3 シロサンゴ骨軸断面の顕微鏡写真(左図)とマグネシウムの濃度分布(右図):マグネシウムの濃度分布から年輪を明確に調べることができる。この年輪から成長速度を算出して、天然資源としての持続可能性を調査する(図 Hasegawa et al. 2012).
  バイオミネラリゼーション
図4 骨軸中におけるMg/Ca比とBa/Ca比の関係:宝石サンゴ中に含まれる微量無機元素の成分組成は、生息海域によって異なる。逆に言えば、無機元素の組成を化学分析することにより、宝石サンゴの産地を特定することができる(図 Hasegawa et al、 2012)。