骨軸の化学分析から生息水温を推定する

 
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はじめに:宝石珊瑚とは
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骨軸の化学分析から生息水温を推定する
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1)3つのサンゴ
 いわゆるサンゴ(珊瑚)と呼ばれる仲間は刺胞動物門に属し、イシサンゴ類、サンゴモドキ類、クロサンゴ類そして八放サンゴ類など多様な仲間が含まれてい ます。ここでは造礁サンゴと冷水サンゴ、そして宝石サンゴについて解説します。第一のサンゴは熱帯・亜熱帯の浅海域のサンゴ礁に分布するイシサンゴ類で、 刺胞動物門花虫綱六放サンゴ亜綱に属し、サンゴ礁を形成するため造礁サンゴと呼ばれています。第二のサンゴは第一のグループと同じイシサンゴ類に含まれま すが、約1500mまでの大水深の海底に生息するため冷水サンゴと呼ばれています。第三のサンゴは宝石として用いられる種が多く含まれるため、宝石サンゴ と呼ばれています。

2)宝石サンゴの酸素同位体比は水温の指標になるか?  
 造礁サンゴの酸素同位体比は、同位体平衡からのズレ(生物的効果)はあるものの基本的に「酸素同位体温度計」の挙動によく従い、水温と水の酸素同位体比 のよい指標となっています。しかし、宝石サンゴの酸素同位体比は採取地点の水温、塩分から予想される変化幅を大きく超えた変動を示します。また、成長方向 に分析した場合、環境の時系列変動を記録していません(図1、鈴木 2012)。

3)マグネシウムカルシウム比(Mg/Ca比)は宝石サンゴのよい水温の指標
 日本周辺の宝石サンゴ(アカサンゴ、シロサンゴ、深海サンゴおよびウミタケの骨軸のバルク試料(比較的大きな骨格片を粉砕して均質化した試料)の Mg/Ca比は、生息水温と統計的に有意な正相関が得られます。それらの関係式の傾きは、無機的に形成された方解石の関係式と近い値を示しています。ま た、骨軸断面の成長方向のMg/Ca比変動も水温のよい指標となっている可能性があります。

4)成果の活用
 Mg/Ca比分析は、一般的な結合誘導プラズマ発光分析法(ICP-AES)および結合誘導プラズマ質量分析法(ICP-MS)で十分な精度で分析が可 能です。そのため、今後の応用例が増加すると期待されます。なお、宝石サンゴが死亡してから海中で時間が経過すると様々な続成変質作用が進行し、骨軸の Mg/Ca比が影響を受ける可能性があります。そのため、いわゆる「枯れ木(海水中で死亡し時間を経た宝石サンゴ)」試料に適用する際は注意が必要です。 (産業技術総合研究所 鈴木淳)

文献
●鈴木淳, 2012. サンゴ骨格分析による過去の気候変遷の復元 - 生体鉱物を用いた地球化学的手法による地球環境研究. シンセシオロジー,5, 80-88.
●岩崎望・横山祐輔・井上 麻夕里, 2008.  宝石サンゴから過去の地球環境を復元する. 岩崎望編, 珊瑚の文化誌—宝石サンゴをめぐる科学・文化・歴史. 東海大学出版会, 69-93.

 

スペース
3つの珊瑚
図1 3つのサンゴ: A)造礁サンゴ (ハマサンゴ属,Porites spp. 石垣島水深5 m写真 岩瀬晃啓)  B)冷水サンゴ (センスガイのなかまFlabellum sp. 小笠原諸島沖合水深水深約500m) C)宝石サンゴ (通称名「 深海サンゴ」 Corallium sp.小笠原諸島沖合水深水深約1500m)。ハマサンゴ属の塊状群体(A)はおよそ200年間で形成されたものである。これに比べて冷水サンゴおよび宝 石サンゴの成長は格段に遅い。
 
シンカイサンゴ
図2 シンカイサンゴの骨軸断面の走査電子顕微鏡写真と酸素および炭素同位体比分析結果
バルク試料
 
 
図3 日本周辺の宝石サンゴのバルク試料のMg/Ca比と生息水温の関係